もし、60分の相続セミナーを企画するとしたら、最初に何を考えるでしょうか。
「相続とは何か」から説明しよう。
法定相続人についても触れたほうがいい。
相続税の基礎知識も必要だろう。
遺言についても説明しておきたい。
おそらく、そんなふうに「何を話すか」を考え始めるのではないでしょうか。
これは、とても自然なことです。
専門家には、参加者に伝えたい知識があります。
限られた60分の中で、何を、どの順番で、どう説明すればわかりやすいのか。
セミナーを企画するときに、まず話す内容を整理するのは当然のようにも思えます。
では、少しだけ問いを変えてみます。
そのセミナーが終わったあと、参加者に何をしてほしいでしょうか。
「相続について理解する」は、行動ではない
たとえば、
「相続について理解してもらいたい」
という目的を設定したとします。
知識を提供すること自体が目的なら、それで問題ありません。
しかし、そのセミナーを開催する目的が「理解してもらうこと」の先にあるなら、もう少し考えてみる必要があります。
セミナーを終えて家に帰った参加者に、何をしてほしいのか。
家族と相続について話してほしいのか。
保険証券や財産について確認してほしいのか。
自分の状況を一度整理してほしいのか。
わからないことがあれば、専門家に相談してほしいのか。
ここまで考えると、「相続について理解してもらう」という目的とは少し違って見えてきます。
理解することは、セミナーの中で起こることです。
一方で、家族と話す、確認する、整理する、相談するというのは、セミナーのあとに参加者自身が起こす行動です。
この二つを分けて考えるところから、セミナーの設計は変わり始めます。
行動を一つ決めると、必要なものが見えてくる
仮に、この相続セミナーで、
「家に帰ったら、自分が加入している保険の内容を確認してみる」
という行動を起こしてほしいとします。
すると、次に考えることが変わります。
参加者が実際に保険を確認するためには、何が必要でしょうか。
まず、自分の保険を確認する必要があると感じてもらわなければなりません。
そのためには、自分がどんな保険に加入しているのか、受取人が誰なのか、そもそも把握できているのかを考えてもらう必要があるかもしれません。
では、そのことを考えてもらうためには、どんな問いを投げかければよいでしょうか。
そして、その問いについて考えるためには、どんな知識が必要でしょうか。
こうして考えていくと、
「相続について何を説明しようか」
と考えていたときとは、必要な内容が少し違って見えてきます。
話したいことを順番に並べるのではなく、参加者に起こしてほしい行動から、必要なものを逆向きに考えていくからです。
「何を話すか」は、あとから決まる
これは、知識を軽視するということではありません。
相続について考えるためには、当然、相続についての知識が必要です。
ただし、知識をセミナーの出発点ではなく、参加者が考え、判断し、行動するための材料として捉えてみます。
すると、
「これは専門家として知っておいてほしい」
ではなく、
「この知識は、参加者が次の行動を決めるために必要だろうか」
という基準で内容を選べるようになります。
専門家ほど、伝えたいことは多くなります。
基礎知識も説明したい。
例外も説明したい。
注意点も伝えておきたい。
しかし、セミナーの時間には限りがあります。
行動から逆算して考えることは、「何を入れるか」を決めるだけではありません。
何を話さないかを決めるための基準にもなります。
セミナーの設計を、逆から考えてみる
一般的にセミナーを企画するときには、
テーマを決める、
話す内容を決める、
スライドを作る、
必要に応じてワークを入れる、
最後に、相談やサービスについて案内する。
そんな順番で考えることが多いかもしれません。
これを、逆から考えてみます。
まず、
セミナー終了後、参加者にどんな行動を始めてほしいのか。
そこを決める。
次に、その行動につなげるために、セミナー終了時にどんな状態になっていてほしいのかを考える。
何を整理して持ち帰ってほしいのか。
何に気づいてほしいのか。
何を自分で考えてほしいのか。
そこから、必要な問いやワークを考える。
そして最後に、そのために必要な知識を考える。
順番にすると、
行動 → 成果物・気づき → 問い・ワーク → 知識 → 教材・進行
という方向です。
何を話すかを最初に決めるのではなく、参加者に起こしてほしい行動から逆算して、必要な体験と知識を組み立てていく。
これが、Action-Centered Workshop Design(ACWD)で大切にしている考え方の一つです。
設計の出発点が変わると、セミナーは変わる
「何を話すか」からセミナーを考えることが、間違っているわけではありません。
知識を提供すること自体が目的なら、それが自然な設計です。
しかし、そのセミナーの目的が、
家族と話してもらうことだったり、
自分の状況を確認してもらうことだったり、
何かを申し込んでもらうことだったり、
専門家への相談につなげることだったりするのであれば、
話す内容を考える前に、一度だけ問いを置いてみてもよいと思います。
このセミナーが終わったあと、参加者に何をしてほしいのか。
その答えが決まると、必要な知識も、問いも、ワークも変わります。
セミナーを変えるために、最初から大きな仕掛けが必要なわけではありません。
まずは、設計を始めるときの問いを一つ変えてみる。
「何を話そうか」ではなく、
「何をしてほしいのか」。
そこから考えてみるだけでも、セミナーの組み立て方は大きく変わってきます。