「参加者に、自分の相続について考えてもらいたい。」

相続をテーマにしたセミナーを企画するとき、こうした目的を置くことがあります。

では、「考えてもらう」ために、60分間で何をしてもらえばよいでしょうか。

相続についての基礎知識を説明して、自分の場合はどうだろうと考えてもらう。途中でいくつか質問を投げかけたり、参加者同士で話してもらったりする方法もあります。

ただ、「考えてもらう」という目的だけでは、参加者に何をしてもらえばよいのかは、まだあまり具体的になっていません。

そこで、少し違うところから考えてみます。

セミナーが終わったとき、参加者の手元に何が残っていればよいでしょうか。

たとえば、「自分が確認すること」と「家族と話しておきたいこと」が整理された一枚のシートを完成させて、持ち帰ってもらうとします。

そう決めると、それまで曖昧だった「考えてもらう」という目的が、少しずつ具体的な設計へ変わっていきます。

「考える」を、形のあるものにする

一枚のシートを完成させてもらうのであれば、まず、そのシートに何を書いてもらうのかを決める必要があります。

現在の財産について把握できていること、まだ確認できていないこと、家族と話しておきたいことなどを書いてもらうのであれば、参加者にはそれぞれについて自分の状況を振り返ってもらわなければなりません。

すると、「どんな問いを投げかければ、自分の状況について考えられるだろう」という次の設計課題が生まれます。

さらに、その問いに答えるために相続についての知識が必要なのであれば、そこで初めて「何を説明する必要があるのか」も見えてきます。

つまり、成果物を先に考えることで、

成果物に何を残してほしいのか → そのために何を考えてほしいのか → その思考を起こすために、どんな問いやワークが必要なのか → そのために、どんな知識が必要なのか

という形で、セミナーの中身を具体化できるようになります。

前回の記事では、「何を話すか」からではなく、終了後の行動からセミナーを逆算するという考え方を紹介しました。

成果物は、その「終了後の行動」と「セミナーの中で起こる体験」の間に置くことができるものです。

成果物は、立派なものでなくていい

「成果物」という言葉から、報告書や企画書のような、完成度の高いものを想像するかもしれません。

しかし、セミナーでつくる成果物は、必ずしも立派な資料である必要はありません。

自分が確認することを書いたチェックシートでも、自分の状況を整理した簡単な表でも、これから取り組むことを書いた一枚のメモでも構いません。

大切なのは、見栄えのよいものを完成させることではなく、参加者がセミナーの中で考えたことが、セミナー終了後にも使える形で残っていることです。

話を聞いて「なるほど」と思ったことは、時間が経てば薄れていきます。一方、自分自身について考え、自分の言葉で書いたものが手元に残っていれば、それを見ながら次に何をするのかを思い出すことができます。

成果物は、セミナーの記念品ではありません。セミナーの中で起こした思考を、その後の行動へ持ち出すためのものです。

成果物は、参加者のためだけにあるわけではない

もう一つ、成果物にはセミナーを開催する側にとっての意味があります。

「参加者に相続について考えてもらう」「自分事として捉えてもらう」「将来について考えるきっかけにしてもらう」といった目的は、方向性としては間違っていません。ただ、そこから具体的な60分のプログラムをつくろうとすると、何をもってその状態になったと考えるのかが曖昧なまま残ります。

そこで、

「セミナー終了時に、参加者は何を完成させているのか」

と考えてみます。

たとえば、参加者が「自分が確認することを三つ挙げられる状態」を目指すのであれば、その三つを書き出す欄を成果物に設けることができます。

すると、その欄を埋めるためには何を考えてもらえばよいのか、何について説明する必要があるのかという具合に、プログラムを具体化していけます。

成果物を決めることは、参加者に何かを持ち帰ってもらうためだけではありません。

開催する人自身が、曖昧な目的を具体的な体験へ変換するための方法でもあります。

ワークシートを配れば、成果物になるわけではない

ここには注意も必要です。

セミナーでワークシートを配り、何かを書いてもらえば、それだけで成果物になるわけではありません。

たとえば、講師が説明した内容の穴埋めをしただけのシートや、感想を書いただけの用紙が、終了後の行動に役立つとは限りません。

重要なのは、「何を書かせるか」ではなく、その記入によって、参加者にどんな思考をしてもらうのかです。

自分の状況を振り返る。

まだ確認できていないことに気づく。

何から始めればよいかを決める。

そうした思考の結果が紙の上に残るのであれば、そのシートにはセミナー終了後にも意味があります。

逆に言えば、成果物を設計することと、問いを設計することは切り離せません。

同じワークシートでも、そこにどんな問いを置くかによって、参加者が考えることは大きく変わります。

セミナーの中で考えたことを、外へ持ち出す

Action-Centered Workshop Design(ACWD)では、セミナー終了後の行動から逆算して、参加者が何を考え、何に気づき、何を形にして持ち帰るのかを設計します。

その中で成果物は、セミナーの途中でつくる単なる教材ではなく、参加者の思考と終了後の行動をつなぐ位置にあります。

だから、成果物を考えるときに最初に問いたいのは、

「どんなワークシートをつくろうか」

ではありません。

「セミナーが終わったとき、この人の手元に何が残っていれば、次の行動を始めやすいだろうか」

という問いです。

その答えが一枚のチェックシートになることもあれば、自分でつくった行動計画になることもあります。テーマによっては、家族に見せるためのメモや、専門家へ相談するときに持参できる整理シートになるかもしれません。

セミナーの中だけで完結するものではなく、そのあとにも使われるものとして成果物を考えてみる。

そうすると、セミナーで参加者に何をしてもらうべきなのかも、少し違って見えてきます。