住宅購入を検討している人に向けて、住宅ローンや資金計画について学べるセミナーを開催している住宅販売会社は少なくありません。
住宅購入にはどのような費用がかかるのか。
自己資金はどう考えればよいのか。
住宅ローンにはどのような選択肢があるのか。
返済額を考えるときには何に注意すればよいのか。
これから住宅購入を考える人にとって、いずれも役に立つ知識です。
講師が分かりやすく説明し、参加者からも「勉強になった」「参加してよかった」という感想が得られている。
それでも、セミナー終了後の個別相談や具体的な住宅購入の検討には、思ったほどつながっていない。
もしそうだとすれば、見直せるのはセミナーの「内容」だけではないかもしれません。
参加者は、セミナーで得た知識を使って、自分たちの住宅購入についてどこまで考えられているでしょうか。
今回は、一般的な住宅資金計画セミナーをBeforeとして、ACWD(Action-Centered Workshop Design)の考え方で再設計した事例をAfterとして比較します。
同じ「住宅資金計画」というテーマでも、設計の起点を変えることで、セミナー終了時の参加者の状態がどう変わるのかを見ていきます。
01|BEFORE:一般的な住宅資金計画セミナー
まず、Beforeとなるセミナーを考えてみます。
住宅購入を考え始めた人を対象として、住宅資金について必要な知識を専門家が分かりやすく解説するセミナーです。
たとえば、
- 住宅購入に必要な費用
- 自己資金の考え方
- 住宅ローンの基礎
- 金利や返済期間
- 借入可能額や返済負担
- 住宅取得後に必要になる費用
- 住宅取得に関係する制度
などを順番に説明していきます。
住宅購入を考えるうえで必要な情報をまとめて知ることができるため、参加者にとって十分に有益なセミナーです。

では、このセミナーを終えた参加者は、その後どうするでしょうか。
「住宅購入には思っていたよりいろいろなお金がかかるんだな」
「住宅ローンにもいろいろあるんだな」
「やはり資金計画は大切なんだな」
そうした理解は得られるでしょう。
しかし、
「では、自分たちは何を確認する必要があるのか」
「自分たちは、まず何から考えればよいのか」
まで整理されているとは限りません。
つまり、自分事としてその後の行動につながるかどうかは別問題なのです。
ここに、セミナーを再設計する余地があります。
02|知識を増やせば、検討は前に進むのか
では、住宅ローンについてもっと詳しく説明すればよいのでしょうか。
あるいは、税制や補助制度、ライフプランについてさらに多くの情報を提供すればよいのでしょうか。
もちろん、それらの知識が必要になる場面はあります。
しかし、住宅購入を考え始めた段階の参加者にとって必要なのは、知識の量だけとは限りません。
たとえば、
今の家計について、どこまで把握しているのか。
貯蓄のうち、どこまで住宅購入に使うのか。
これから教育費や車など、どのような支出がありそうなのか。
住宅ローンについて、何を確認する必要があるのか。
住宅を購入した後には、どのようなお金が必要になるのか。
こうしたことが、まだ自分たちの問題として整理されていない可能性があります。
つまり、
「住宅資金について知らない」
だけではなく、
「住宅資金について得た知識と、自分たちの状況がまだつながっていない」
という状態です。
そこで、同じ住宅資金計画セミナーをACWDの考え方で再設計してみます。
03|AFTER:ACWDで住宅資金計画セミナーを再設計する
ACWDでは、最初に「何を説明するか」を決めるのではなく、セミナー終了後の参加者の状態から逆算して設計します。
今回想定した参加者は、「住宅購入を考え始めているものの、まだ具体的な計画には入っていない30~40代の夫婦・パートナー」です。
住宅についての情報収集は始めていますが、自分たちの住宅資金について、何を確認し、何を考える必要があるのかまでは整理できていない段階を想定します。
この参加者に、90分のセミナーで住宅予算そのものを決定してもらうことは目指しません。
代わりに、
「住宅購入のお金を考えるために、何を見る必要があるのか」
を理解し、
「わが家では、何が分かっていて、何をまだ確認する必要があるのか」
を整理し、
「そのために、まず何をするのか」
まで決めて帰ってもらう。
これをセミナーの成果として設定しました。
04|持ち帰るのは「わが家の住宅資金整理シート」
そのために設計した成果物が、「わが家の住宅資金整理シート」です。

これは住宅予算を算出するための詳細な計算表ではありません。
参加者が、
- 今、分かっていること
- もっと確認したいこと
- それをどう確認するか
- 最初に何をするか
を整理するためのシートです。
すべての情報が揃っていることを完成条件にはしていません。
「これは、まだ分からない」と分かることも、成果として扱います。
05|違い① 最初に「住宅資金の全体地図」を渡す
Beforeでは、それぞれの住宅資金知識を順番に説明していました。
Afterでは、詳しい話を始める前に、住宅購入のお金を考えるための「全体地図」を示します。

講師はここで、
「今日は、この地図を『わが家の場合』に置き換えていきます」
と伝えます。
そして参加者は、最初に6つの領域について、
「分かっている」
「少し分かる」
「まだ分からない」
のどこに自分たちがいるのかを確認します。
まだ数字を計算する必要はありません。
まず、自分たちの現在地を把握します。
06|違い② 「知識→知識→知識」ではなく、「知識→わが家」を繰り返す
ここが、BeforeとAfterの大きな違いです。
一般的な知識提供型のセミナーでは、
知識 → 知識 → 知識 → 知識 → 理解
という流れになりやすくなります。
Afterでは、この構造を変えました。

このセミナーでは、5つのテーマを扱います。
1|買うときのお金
「家の価格以外のお金も考えると、わが家で確認したいことは?」
2|無理なく負担できるお金
「住宅費を払いながら暮らしていくと考えると、わが家で考えておきたいことは?」
3|これからの暮らし
「これからの暮らしで、住宅費と一緒に考えておきたい支出は?」
4|住宅ローン
「住宅ローンについて、わが家で確認してみたいことは?」
5|買った後のお金
「購入後のお金について、わが家で確認したいことは?」
たとえば住宅ローンであれば、「住宅ローンは、いくら借りるかだけでは決まらない」という考え方を説明します。
借入額だけではなく、金利や返済期間などによって、毎月の返済額や総返済額が変わる。
ただし、ここで住宅ローン商品を詳しく比較したり、「固定と変動のどちらが正解か」という答えを示したりはしません。
その代わり、
「では、わが家では何を確認したいですか?」
と問いを返します。
知識を理解することだけで終わらせず、その知識を使って自分たちについて考える。
この繰り返しが、Afterの中心です。
07|違い③ 「分からない」を、次へ進む材料にする
このセミナーを終えたとき、参加者は「知らないこと」を意識しているかもしれません。
たとえば、
「固定金利と変動金利の違いを、もう少し確認したい」
「購入後の修繕費をどの程度考えておけばよいのだろう」
「教育費を一度整理してから住宅費を考えた方がよさそうだ」
「貯蓄のうち、どこまで自己資金に使うか夫婦で話していなかった」
といったことです。
これは、セミナーの失敗でしょうか。
むしろ逆です。
参加前には、
「住宅のお金が、なんとなく不安」
だったものが、
「自分たちは、これを確認する必要がある」
という具体的な問いに変わっています。

知らないことが増えたのではなく、「何を知らないのか」が分かるようになった。
そして、確認すれば次へ進める状態になった。
ここも、今回の再設計で重視した点です。
08|違い④ 最後に「ご相談ください」と言うだけでは終わらない
住宅販売会社がセミナーを開催する以上、参加者とのその後の接点をつくることも、主催者にとって重要な目的です。
一般的なセミナーでも、最後に個別相談を案内することはできます。
「詳しく相談したい方は、ぜひ個別相談へお申し込みください」という形です。
Afterでも個別相談への導線は用意します。
ただし、その前に参加者自身が、
「何を確認したいのか」
「それはどうすれば分かるのか」
「まず何をするのか」
を考えます。
確認方法も、住宅販売会社への相談に限定しません。
- 自分で調べる
- 夫婦・家族で話す
- 金融機関に確認する
- FP等に相談する
- 住宅販売会社に確認する
参加者自身が、自分の課題に合った方法を選びます。
その結果、
「これは住宅販売会社に聞いた方がよさそうだ」
と判断した参加者には、その場で個別相談へ進める導線を用意します。
つまり、
主催者が参加者を相談へ誘導する
だけではなく、
参加者自身の中に「相談する理由」ができた状態になっている。
ここに、営業セミナーとしての違いがあります。
09|Before / After 同じ住宅資金計画セミナーでも、終了時の状態が違う
今回のACWDの手法による再設計をまとめると、次のようになります。

10|変えたのは、住宅資金のテーマではない
今回のAfterでは、Beforeで扱っていた住宅資金というテーマを別のものに置き換えたわけではありません。
- 住宅購入時のお金
- 家計や自己資金
- これからの支出
- 住宅ローン
- 購入後のお金
いずれも、住宅資金を考えるために必要なテーマです。
大きく変えたのは、
「その知識を、セミナーの中でどのように使うのか」
です。
知識を伝えて理解してもらう。
そこで終わるのではなく、
- 知識を使って自分たちについて考える
- 分からないことを発見する
- 確認方法を考える
- 最初の行動を決める
そこまでを一つの体験として設計しています。
つまり、セミナーのテーマを変えたのではなく、
「知識を伝える場」から「参加者自身の検討を前へ進める場」へ、
セミナーの働き方を変えたと言えます。
11|セミナーで伝えている知識を、その後の行動へ
bizstandが提唱する ACWD(Action-Centered Workshop Design)は、専門知識を行動につながる体験へ変換するためのセミナー設計サービスです。
設計は、
行動 → 成果物 → 問い → ワーク → 教材 → 知識 → 進行
という順序で逆算します。
今回の住宅資金計画セミナーでも、住宅資金の専門知識そのものをACWDが決めることを目的としているわけではありません。
ACWDが設計するのは、
その知識をどのタイミングで伝えるのか、
その直後に何を考えてもらうのか、
何を成果物として残すのか、
そして、セミナー終了後の行動へどうつなげるのか、という「知識と行動の間」です。
すでに住宅購入セミナーを開催している。
内容にも大きな問題はない。
それでも、
「参加者の満足だけでなく、その後の具体的な検討や相談につながるセミナーにしたい」
という場合には、説明内容を増やす前に、セミナー全体の設計を見直す余地があるかもしれません。