健康診断で、「少し運動したほうがいいですね」と言われたとします。
本人もその必要性はよくわかっています。
運動不足が身体によくないことも知っているし、「これを機会に少し歩こう」と思う。
ところが一週間後。
特に生活は変わっていない。
これは、それほど珍しいことではありません。
知らなかったわけではない。納得していないわけでもない。「やろう」とさえ思っている。
それでも、人は必ずしも動きません。
「やろうと思う」と「やる」は同じではない
行動科学では、こうした「意図」と実際の「行動」の間にある隔たりが研究されてきました。
いわゆる Intention–Behavior Gap(意図と行動のギャップ) です。
「運動しよう」
「勉強を始めよう」
「家計を見直そう」
そう思った経験は、多くの人にあるでしょう。
しかし、「やろう」という意志だけでは、いつ、どこで、何から始めるのかが決まっていません。
日常生活に戻れば、仕事や家事など、目の前のことが次々にやってきます。
そのうち、「やろう」と思っていたこと自体を忘れてしまう。
理解すること、やろうと思うこと、そして実際に行動すること。
この三つは、似ているようで別の段階です。
セミナーでも、同じことが起きる
これは、セミナーやワークショップでも同じではないでしょうか。
専門家の話を聞いて、
「とても勉強になりました、さっそくやってみようと思います」
と感じる。
アンケートの満足度も高い。
それでも一週間後には、参加者には何の変化も起きていない。
もちろん、知識を提供すること自体が目的のセミナーであれば、それで問題ありません。
新しいことを知り、理解を深めてもらう。それ自体が成果だからです。
しかし、セミナーの目的がその先にある場合はどうでしょう。
例えば、家族と話してほしい。
自分の状況を確認してほしい。
個別相談に来てほしい。
サービスを試してほしい。
そうした「セミナー終了後の行動」を期待しているのであれば、「よくわかりました」だけでは本来の目的を達成したことにはなりません。
なぜ「理解」で終わってしまうのか
セミナーを企画するとき、多くの場合は「何を話すか」から考えます。
基礎知識を説明し、具体例を紹介し、注意点を解説する。
そして最後にまとめる。
これは、理解してもらうための設計としては自然です。
しかし、その先に行動を期待するのであれば、もう一つ考える必要があります。
参加者は、セミナーが終わったあとに何をするのか。
例えば、60分間ずっと知識を聞いていた参加者に、最後の5分で突然「ご興味のある方は個別相談へ」と案内したとします。
それだけで「学ぶ人」から「行動する人」へ切り替わるとは限りません。
説明が足りなかったのではなく、理解したあとから行動するまでの部分が、そもそも意図をもって設計されていなかったのかもしれません。
「何を伝えるか」より先に、「何をしてほしいか」を考える
そこで、セミナーの作り方を逆から考えてみます。
まず考えるのは、
セミナーが終わったあと、参加者に何をしてほしいのか。
例えば相続についてのセミナーなら、「相続について理解する」で終わらせず、
家族に話してみる。
保険証券や財産について確認してみる。
自分では判断できないことに気づく。
必要であれば専門家に相談する。
そんな具体的な行動を考えます。
すると次の問いが生まれます。
その行動を起こすために、何に気づいてもらう必要があるのか。
どんなことを自分で考えてもらう必要があるのか。
どんなワークが必要なのか。
そして、そのためにはどんな知識を伝える必要があるのか。
「何を話そうか」から始めたときとは、セミナーの組み立て方が変わってきます。
行動から逆算して、セミナーを設計する
bizstandでは、こうした「終了後の行動から逆算してセミナーやワークショップを設計する」という考え方を、
Action-Centered Workshop Design(ACWD)
として整理しています。
知識を伝えることを否定するものではありません。
理解は重要です。
ただ、目的が「理解した先」にあるのであれば、そこまでを設計の対象にしてみる。
人は、わかったからといって必ず動くわけではありません。
だからこそ、何を伝えるかだけでなく、その先にどんな行動を生み出したいのかまで考えてみる。
「わかった」と「やる」の間にある溝をどう埋めるか。
それもまた、セミナーを設計するときの大切な問いだと考えています。