セミナーを企画していると、「話を聞くだけでは一方的なので、途中にワークを入れよう」と考えることがあります。
参加者同士で話してもらう。自分の考えを書き出してもらう。いくつかの選択肢から選んでもらう。
講師の話を聞くだけだったセミナーにこうした時間が加われば、参加者が主体的に関われるようになります。場の雰囲気が変わり、参加者同士の交流が生まれることもあるでしょう。
では、そのワークが終わったとき、参加者に何が起きていれば、そのワークは成功なのでしょうか。
たくさん意見が出たことや、参加者同士の会話が弾んだことにも意味はあります。
しかし、セミナー終了後の行動につなげることが目的なら、もう一つ考えておきたいことがあります。
その時間を使って、参加者に何を考えてもらう必要があるのか。
ワークの設計は、そこから始めることができます。
ワークそのものを目的にしない
セミナーにワークを取り入れること自体が目的になってしまうと、「個人ワークを10分」「ここでグループワーク」といった形式から内容を考えやすくなります。
もちろん、一人で考える時間にも、参加者同士で話す時間にも、それぞれ意味があります。ただ、どの形式が適しているかは、その時間に何を起こしたいのかによって変わります。
たとえば、相続についてのセミナーで、参加者に「家族と話しておきたいこと」を整理して持ち帰ってもらうとします。
そこで10分間の個人ワークを設けて、
「家族と話しておきたいことを書いてください」
と伝えたらどうでしょうか。
すぐにいくつも書ける人もいるでしょう。しかし、まだ相続について具体的に考えたことのない人であれば、何を書けばよいのか分からず、手が止まってしまうかもしれません。
書く時間を用意しただけでは、書くために必要な思考まで生まれるとは限らないからです。
成果物から逆算すると、必要な思考が見えてくる
前回の記事では、セミナーの中で考えたことを終了後の行動へ持ち出すものとして、「成果物」を取り上げました。
たとえば相続セミナーの成果物として、「自分が確認すること」と「家族と話しておきたいこと」を整理したシートを持ち帰ってもらうとします。
この成果物から逆算すると、参加者に何を考えてもらう必要があるのかが見えてきます。
「家族と話しておきたいこと」を書くためには、そもそも自分と家族との間で何が共有されていて、何が共有されていないのかを振り返る必要があります。
もし自分が突然入院して、お金や契約について家族が確認しなければならなくなったらどうなるだろう。自分しか知らない銀行口座や保険はないだろうか。家族は必要な情報を見つけられるだろうか。
そんなことを考えてみると、「そういえば、この保険について家族に話したことがない」「銀行口座については自分しか把握していない」といったことに気づくかもしれません。
その気づきがあれば、「これは一度、家族と話しておこう」と判断し、成果物に書くことができます。
つまり、成果物の欄を埋めてもらうことがワークの目的なのではありません。
その欄に自分なりの答えを出すために必要な思考を、セミナーの中で起こすことが重要になります。
「何をするか」より、「何を考えるか」
必要な思考が決まれば、そこで初めて「何をしてもらうか」を考えることができます。
自分と家族の間で共有できていないことを一人でチェックしてもらう方法もあります。ある家族の具体的なケースを示して、「自分の場合はどうだろう」と比較してもらう方法も考えられます。
テーマや参加者によっては、二人で話すことで、自分では気づかなかったことに気づけるかもしれません。
どの方法を選ぶにしても、先にあるのはワークの形式ではありません。
参加者に必要な思考や気づきがあり、それを起こすための方法として、記入、比較、選択、対話といった活動を選びます。
同じ目的であっても、適したワークは一つとは限りません。
だからこそ、「個人ワークを入れよう」「グループワークを入れよう」と形式から考えるよりも、「ここでは何を考えてもらう必要があるのか」と考えるほうが、セミナー全体の目的とワークを結びつけやすくなります。
盛り上がることと、必要なことは同じとは限らない
参加者同士の会話が弾み、会場が盛り上がれば、ワークがうまくいったように感じます。
もちろん、楽しさや交流が目的の一つであれば、それは大切な成果です。また、安心して話せる雰囲気があることで、考えが深まることもあります。
一方で、終了後の行動につなげるために必要なことが、必ずしも盛り上がる活動とは限りません。
自分の財産について一人で静かに確認する時間や、これまで家族に伝えてこなかったことを書き出す時間のほうが、その人にとって重要な場合もあります。
そのため、Action-Centered Workshop Design(ACWD)では、ワークが盛り上がったかどうかだけではなく、参加者が次の行動へ進むために必要な思考や気づきが生まれたかという視点から考えます。
ワークは、セミナーを参加型に見せるための仕掛けではなく、参加者自身が考えるための時間として設計するものだからです。
ワークを考える前に、一つ問いを置く
「どんなワークを入れようか」と考えると、アイデアはいろいろ出てきます。
付箋に書いてもらう、グループで話してもらう、チェックリストを使ってもらう。そうした方法を知っていることは、セミナーを設計するうえで役に立ちます。
ただ、その前に一つ問いを置いてみます。
「この時間で、参加者に何を考えてもらいたいのか。」
その答えが決まれば、一人で書くのがよいのか、何かと比較するのがよいのか、誰かと話すのがよいのかを考えられます。
そして、参加者に何を考えてもらいたいのかが決まったら、さらに次の問いが生まれます。
その思考を引き出すために、どんな問いを投げかければよいのか。
「どんなワークをするか」を先に決めるのではなく、必要な思考から逆算してワークを組み立てる。
そう考えると、セミナーの中に置かれた一つひとつのワークにも、終了後の行動へ向かうための役割が生まれてきます。