「このお店、よかったよ」
お客様が誰かにそう話してくれることは、店舗にとってうれしいことです。
いわゆる口コミです。
しかし、口コミが起きたからといって、その人が実際に来店してくれるとは限りません。
店の名前を聞いて終わることもあれば、あとで調べようと思って忘れてしまうこともあります。
口コミと、実際の紹介は同じではありません。
この違いを考えるうえで、興味深い事例があります。
Dropboxというサービス
Dropbox(ドロップボックス)は、インターネット上にファイルを保存し、パソコンやスマートフォンなど複数の端末から利用できるクラウドストレージサービスです。
今ではGoogle DriveやiCloudなど同種のサービスが身近になりましたが、Dropboxはクラウドストレージがまだ一般には馴染みの薄かった時期から普及したサービスの一つです。
パソコンのDropboxフォルダにファイルを保存すると、ほかの端末にも自動的に同期される。ファイルやフォルダをほかの人と共有することもできます。現在も同様の基本機能が提供されています。(Dropbox)
そんなDropboxの成長を支えた施策として、よく知られているものがあります。
友人紹介プログラムです。
紹介すると、二人とも保存容量が増える
Dropboxの紹介制度はシンプルでした。
利用者が友人をDropboxへ招待し、その友人が利用を開始すると、紹介した側と紹介された側の双方に、無料で使える保存容量が追加されるという仕組みです。
Dropbox創業者のDrew Houstonが2010年に行った講演によると、この紹介プログラムによって登録数は恒常的に約60%増加しました。
当時は、1日の新規登録の約35%が紹介プログラム経由。
2010年4月までの30日間だけでも、利用者から約280万件の直接招待が送られていました。(www.slideshare.net)
非常に大きな数字です。
しかし、ここで注目したいのは、単に「紹介特典が豪華だったから成功した」ということではありません。
Dropboxには、すでに口コミがあった
Dropboxは紹介プログラムを始める以前から、口コミによる成長に可能性を見いだしていました。
Houston自身の資料でも、その後の戦略を「口コミとバイラルを促す」方向へ転換し、利用者がサービスを広めるための、よりよい手段を提供したことが説明されています。(www.slideshare.net)
つまり、何もなかったところに「誰かにDropboxを教えたい」という気持ちを作り出した、というだけではありません。
Dropboxを便利だと思う、誰かにも教えたいと思う。
その気持ちを、
友人を招待するという具体的な行動へつなげる仕組みを用意した。
ここに、この事例の面白さがあります。
「紹介してください」だけでは、行動にならない
これは店舗でも同じかもしれません。
お気に入りの美容室。
いつも利用している整体院。
感じのよかった教室やスタジオ。
人は日常の中で、誰かに店やサービスを勧めています。
しかし、
「今度その店を教えて」
と言われて、その場では店名を思い出せなかった。
あとでURLを送ろうと思って、そのまま忘れてしまった。
紹介カードをもらっていたけれど、そのときは持っていなかった。
そんな小さなことで、口コミは口コミのまま終わります。
お客様の満足度をさらに高めなければ、紹介は生まれない。
紹介特典をもっと豪華にしなければ、紹介してもらえない。
そう考える前に、もう一つ確認できることがあります。
すでに存在している「誰かに教えたい」という気持ちを、実際の紹介へつなげる仕組みはあるだろうか。
口コミを増やすだけではなく、口コミの先をつくる
Dropboxの成功を、そのまま店舗の紹介制度に当てはめることはできません。
サービスの性質も利用者数も、紹介する場面も違います。また、Dropboxの成長には紹介制度だけでなく、サービスそのものの価値や市場環境など、さまざまな要因があります。
それでも、参考にできる考え方があります。
人に勧めたいと思ってもらうことと、実際に人へ紹介できるようにすることは別の問題だということです。
口コミを生み出すには、まずよいサービスが必要でしょう。
しかし、すでに口コミが生まれているのであれば、次に考えるのは、
「もっと紹介してください」
ではなく、
「その口コミを、どうすれば自然に次の行動へつなげられるだろう」
ということなのかもしれません。
