紹介してくれた人に特典を用意すれば、紹介する人が増える。そう考えるのは自然です。

では、特典を大きくすればするほど、紹介は増えるのでしょうか。

紹介制度について調べてみると、どうもそれほど単純ではないようです。

紹介するのは企業ではなく人です。そして、その相手も友人や家族です。

人は誰かに店やサービスを紹介するとき、何を気にしているのでしょうか。

紹介する側は、「自分がどう見られるか」を気にしている

紹介報酬については、以前からさまざまな研究が行われています。

2007年に『Journal of Marketing』に掲載された研究では、4つの実験を通じて、紹介報酬は紹介意向を高めるものの、その効果は紹介する相手との関係性やブランドの強さによって異なることが示されました。

親しい相手や強いブランドの場合には、紹介する人だけではなく、紹介される人にも特典を配分することが効果的になるという結果も出ています。

さらに興味深いのが、2013年に発表された研究です。

ここでは、紹介する人が、

「この紹介によって、相手から自分がどう見られるだろう」

と考えていることに注目しています。

紹介報酬が存在すると、この「相手からどう見られるか」という認識にマイナスの影響が生じる一方、紹介する相手との関係が強ければ、その影響は弱まることが示されています。

考えてみれば、不思議なことではありません。

本当に気に入った店を友人に、

「ここ、よかったよ」

と教えることと、

「ここを利用してくれたら、私が500円もらえるから行ってみて」

と伝えることでは、同じ店を紹介していても少し意味が変わります。

紹介とは、商品やサービスの情報だけではなく、自分の信用も少し乗せて相手に渡す行為と言えるようです。

お金を増やせば解決する、とも限らない

2014年の研究では、紹介報酬として金銭を与える場合と、金銭以外の特典を与える場合が比較されています。

消費者自身は経済的価値の高い金銭報酬を好む傾向がある一方で、金銭には社会的なコストも伴います。

研究では、紹介することに十分な理由がない場合、金銭報酬が非金銭的報酬より紹介の発生や受け入れを低下させるケースが確認されています。一方、紹介する側と紹介される側の双方に報酬を与えることで、金銭報酬の効果が改善する結果も示されました。

つまり、

「紹介が少ないなら、紹介者への特典をもっと大きくしよう」

と単純に考えればよいわけでもなさそうです。

紹介者にとって経済的には魅力的になっても、その一方で、

「特典目当てで友達を紹介していると思われたくない」

という別の問題が大きくなる可能性があるからです。

紹介された側も、「なぜ紹介したのか」を見ている

では、紹介された人はどうでしょうか。

2019年に発表された3つの実験では、紹介報酬の存在と、紹介者との人間関係が、推薦を受け入れる可能性にどう影響するかが調べられています。

ここでも重要だったのが、紹介者との関係性でした。

関係の強い相手からの紹介では、紹介報酬の有無による推薦受容への大きな違いは確認されませんでした。一方、関係の弱い相手から紹介された場合には、報酬がある場合よりも、報酬がない場合の方が推薦を受け入れやすいという結果が出ています。

紹介された人も、

「この人は本当に良いと思って教えてくれたのだろうか」

を見ているということでしょう。

紹介する側は、「自分がどう見られるか」を気にする。

紹介された側は、「なぜ自分に勧めているのか」を考える。

こうして両方から眺めてみると、紹介制度というものが少し違って見えてきます。

紹介制度は、人と人との信頼関係の上に置かれる仕組みなのかもしれません。

同じ「双方500円OFF」でも、見え方は変えられる

では、紹介制度ではどのように特典を伝えればよいのでしょうか。

たとえば、紹介する人と紹介された人の双方に500円OFFの特典を用意するとします。

こんな伝え方ができます。

「お友達を紹介すると、あなたに500円OFFクーポンをプレゼント!」

一方、同じ条件でも、

「お友達に500円OFFの特典をプレゼントできます。お友達が特典を利用すると、ご紹介いただいた方にもお礼として500円OFFクーポンをお送りします。」

とも伝えられます。

経済的な条件は同じです。

しかし、前者は、

友達を紹介する → 自分が得をする

という構造が前面に出ます。

後者は、

友達にメリットを渡す → そのお礼として自分にも特典が届く

という順番です。

今回紹介した研究から、後者なら必ず紹介が増えるとまでは言えません。

ただ、紹介者が「相手からどう見られるか」を気にし、紹介された側も紹介者の動機を考えるのであれば、紹介者自身のメリットよりも、まず紹介された人のメリットを伝えることには意味がありそうです。

「得をする人」ではなく、「いいものを渡せる人」にする

紹介制度を、

「友達を連れてくれば特典をあげます」

という仕組みではなく、

「友達にちょっといいものを渡せます」

という仕組みとして考えてみる。

そして、その行動に対して店舗から紹介者にも、

「紹介してくれてありがとう」

と特典を返す。

同じ双方特典でも、この順番なら紹介する人の立場は少し変わります。

紹介者に営業をしてもらうのではなく、誰かにちょっといいものを渡せるようにする。

紹介制度を設計するときには、特典の金額だけでなく、そんな見せ方まで考えてみてもよいのかもしれません。

紹介制度は、人間関係の中に置かれる

紹介制度やリファラルマーケティングを考えるときには、

500円にするのか、1,000円にするのか、紹介者と紹介された人のどちらに特典を付けるのか、

どうしても、条件のほうに目が向きます。それは必要なことでしょう。

しかし、紹介するのは人であり、その相手もまた人です。

紹介する人は、自分がどう見られるかを気にする。

紹介された人は、なぜ自分に勧めたのかを考える。

そうであるなら、紹介制度は単なる販促施策ではなく、すでに存在している人と人との信頼関係の中に置かれる仕組みと言えるでしょう。

だからこそ、特典の大きさだけではなく、

紹介する人がどんな気持ちで送れるのか。 紹介された人が、それをどんな気持ちで受け取るのか。

そこまで考えることも、紹介制度の設計なのかもしれません。